飛べない黒猫

磨き上げられたピカピカの大理石のシンク。
天然木のキッチンユニットにテラコッタタイルを敷き詰めた床。

この家に引っ越す際、古くなった水回りは修繕して、機能的でありながらも洋館全体の雰囲気を壊さないキッチンへとリフォームしていた。


真央は冷蔵庫の扉をあけて中を覗き込む。

チーズとハムとトマト、そして瓶詰めのピクルスを取り出してシンクへと運んだ。

業務用の厳ついステンレスの冷蔵庫だけが、モダンで落ち着いたキッチンに異彩を放っていた。



料理好きの和野が選んだアメリカ製の冷蔵庫。
和野が使い良いようにと青田が好きな物を選ばせ購入した。

真央はよく、和野とこのキッチンで一緒に料理を作った。


「お料理を作る事も食事を頂く事も、とっても大切な事なのですよ。」


和野はよくこう言っていた。


「人間は御飯を食べなきゃ生きていけません。
食べた物の栄養が、カラダを作るのです。
食べる事をおろそかにすると、充分に栄養がカラダに行き渡らなくなって良いカラダは出来ません。
まあ…なんて美味しそうなトマト!
真っ赤に熟しているでしょう?
お日様の恩恵を受けて、生命を保つ為にたっぷり栄養をため込んでいるのですよ。
真央さん、これ切ってみましょう。
チーズとバジルでサラダにすると…それは、もう、美味しいんですから!」


食の細い真央に食事の大切さを教え、作る楽しさと、食べる楽しさを教えてくれた。



トマトとピクルスを刻み、ハム、チーズと一緒にスライスしたパンにはさむ。
和野がよく作ってくれたホットサンドを作る。

お昼は過ぎていた。

蓮はまだ部屋から出てこないが、珈琲も入れる。
パンが焼き上がり、珈琲に牛乳を入れてテーブルにつくと、蓮が顔を出した。


「おっ、美味そうなモン食ってるな…」


寝癖で跳ねた髪のまま、蓮が笑った。


「蓮の分…あるよ。」


真央も笑った。