飛べない黒猫

岡田の顔色が変わった。


「あ…えぇ、美味しい料理が食べたくて、久しぶりに寄らせて貰いました。」


岡田は明らかに動揺していた。

青田は、また、横目でチラリと岡田を見て、話題を変えた。


「昨日、千代ちゃんの店に、初めて真央も連れて行ったんですよ。
実は、このところ真央の体調がすこぶる良くて。
少し外の空気にあたるのも良いのではないかと思ってね。」


「…はあ、そうだったんですか…」


何か他の事で頭が一杯なのであろう。
岡田は気の無い返事を、返しただけだった。


「この様子だと真央も大丈夫かとおもって…
実は、身内だけででも結婚報告の場を持とうと思っていました。
良い機会だし、近いうちにどうかと思って。」


「えっ?
あ、結婚式ですか?」


「いや、そんな大袈裟なのではなくて…
食事会くらいな規模で。
どこか小さなレストラン貸切にして、身内だけでゆっくりできたらと…」


「わかりました。
社長…いえ、義兄さんのスケジュールを確認して、日程を調整しましょう。
レストランの予約や親戚への招待状など、こちらで手配します、ご心配なく。」


「あぁ、ありがとう。
そうして貰えると助かります。」


青田は蕎麦屋ののれんをくぐる。
奥の座敷に座り注文を済ませたところで岡田に聞いた。


「ところで…君は、私と洋子の結婚に反対でしたよね?」


眼鏡を外しハンカチで曇りを拭き取りながら、岡田は答えた。


「えぇ…急な事でしたし、私も縁談話は持ち掛けられていましたから。
中には、とてもいいお相手もいました。
義兄さんは話も聞いてくれませんでしたけど…」


「はははっ、それは、すまなかった。
今でも反対ですか?」


「もう、私が反対したところで、どうにもならないじゃないですか。
私は、ただ…洋子さんの奔放さを心配していただけなんです。」


青田はテーブルに組んだ両手を乗せて岡田の目を見る。


「洋子の奔放さ?
彼女は奔放なんですかね。」


青田が聞く。