飛べない黒猫

事務所内がざわつきはじめた。
あぁ、昼休みに入ったのか…と、岡田は壁掛け時計を見た。


経理課の女子社員達が会議用長テーブルに集まり、食事を取り始めた。
いつもの光景。
そのうちの1人が、週刊誌を手に声を上げた。


「ほら、ここ。社長の娘さんの記事…
すごーい!社長の写真も載ってる。」


おぉ…と、どよめき。


社長の娘?
…まさか!


岡田は、弁当を広げ熱心に雑誌を読み上げている女子社員の群れに歩み寄った。


「何か面白い記事でも乗っているのかね?」


岡田は何気ない素振りで話しかける。


「社長の娘さんの記事が出てるんです。
凄いですね…社長がインタビューに答えてますよ。
もう、すっかり有名人になってしまいましたね。」


1人が雑誌を持ち上げ、岡田に見えるように差し出す。

真央の幼少期の写真や、自宅で作業している様子が大きく掲載されていた。


「ほう…珍しいね、
ずっと取材関係は、断っていたのに。」


「独占取材って書いてましたよ。
きっと、知り合いに頼まれたんじゃないですか?
社長の交友関係広いですもんね…」


頼まれた…
いや違う。

取引だ!
ちくしょう、あの男…
記事の揉み消しを条件に、真央の独占取材にありつきやがった。

かぁっと頭に血がのぼり、岡田は拳を握りしめ唇を噛んだ。


「あの…どうかされました?」


無言で考え込む岡田に、女子社員は不思議そうに声をかける。


「あっ、いや…社長も大変だなぁと思ってね。
さあ、私も食事に行ってくるかな…」


岡田は慌ててその場を離れた。