飛べない黒猫

料亭を出ると、外は霧だった。
ひんやりとした空気が頬にあたり心地が良い。


「蓮くん、真央、もう1件付き合ってくれないかな。
少しだけ飲み直さないかい?
すぐ近くに知り合いの店があるんだが…」


洋子の告白で、重くなってしまった空気を気遣って青田が声をかけた。


「僕はいいですが…真央は大丈夫?」


「ん…ちょっと疲れたけど…大丈夫…」


あまり顔色が良くない。
洋子が気付き、真央の肩に手を添える。


「馴れない場所で疲れたわよね…
あたしと先に帰ろっか?
また来ればいいんだから無理したら駄目よ。」


真央は素直にうなずいた。


「あ…じゃあ、俺が一緒に帰るよ。
飲み過ぎて、結構フラフラだし…
せっかくだから、たまには夫婦でゆっくりデートしておいでよ。」


蓮の提案に、洋子は気がひけるのか「でも…」と煮え切らない返事を返した。


「俺は大丈夫だよ。
母さんの話を聞いて…スッキリしたってゆーか…納得した。
何もわからなかった時は、変に先走って、悪い方向に物事考えちゃって。
勝手に落ち込んだり苛立っていた。
母さんが、どんな気持ちで俺を産んだのか…知ることが出来て良かった。
話しが聞けてよかった。」


蓮は穏やかに言った。


「俺を産んでくれて…ありがとう。」


洋子の目に涙が溢れる。
蓮は少し照れくさそうに笑ってから、青田に向き直る。


「僕の事、すべて知った上で受け入れてくれてたんですね…」