飛べない黒猫

岡田は腕時計を見て窓の外を眺めた。

昼間との気温差が大きかったのだろう、この時間になって靄がでてきた。
街頭の灯りも、行き交う車のライトも、靄でぼんやりとかすんでいた。


灰皿には、もう、何本もの吸い殻が溜まっている。
ため息をつき、ぬるくなった珈琲を啜る。

勢いよくドアが開き、扉口にくくりつけられたベルの音と共に痩せた男が入って来た。


カウンターにいるウエイトレスに向かって「ホットで」と注文し、愛想笑いを浮かべて岡田の座っているテーブルへやってきた。


「すみませんね、お待たせしちゃって…」


岡田は不機嫌な声で男に食ってかかる。


「どういう事なんだ!
なぜ、俺の提供した記事が載らない…
スクープだろ?
面白い記事になるって、あんただって言ってただろう。」


男は封筒から原稿を取り出す。


「いやぁ…真央本人だったら問題無いんですがね…
一般人の記事じゃ、あとあと大変みたいで。
ほら、名誉毀損とかで訴えられるかもしれないでしょう?
出版社側から、NG出ちゃって」


岡田は不満げな顔で、反論しようと言葉を言いかけたが、男が先手を打つ。


「この原稿は、お返しします。
あ、他に売り込むなら気をつけた方がいいですよ…
青田社長、おっかねー顔して、情報の出どころ探ってましたから。」


「なにっ⁉
…お前、まさか社長と会ったのか!」


岡田の顔色が、サァッと青ざめる。


「いや…事実関係の確認させて貰っただけですよ。
それだけ。
じゃ、間違いなく返しましたからね。
また何かいい情報有ったら頼みます…」


男は、頼んだ珈琲も飲まずに席を立ち、会計を済ませて出て行った。


「ちくしょう…」


岡田は歯ぎしりして、突き返された書類を握り潰した。