飛べない黒猫

数日後、洋子は母親と共に産婦人科へ行った。

噂を気にしてか、着いた病院は、自宅から遠く離れた地区にあった。


洋子は妊娠24週と診察された。
計算すると、強姦された日の前後数日にあてはまっていた。


中絶出来るのは、妊娠22週未満(5ヶ月)まで。

洋子のお腹の子は、法的に中絶を許されない時期になっていた。


「先生、この子は、まだ高校生なんです。
それに…強姦されて…可哀想に…」


「死産させるという方法もあります。
それなりの届け出と手続きが必要となりますが…。
それに…母胎のリスクも大きく、覚悟も必要です。」


母親と医者の会話に、初めて洋子が加わる。


「わたし、産みます。」


母親の驚いた顔。


「…何いってるの、洋子ちゃん…」


「お腹の中の赤ちゃんは生きてます。
動きます。
殺すことなんて出来ません。
私の赤ちゃんです。
産みます。」


洋子は立ち上がった。


「お母さん、ごめんなさい…
殺すことなんて出来ないの。」


「あなたは、何もわかってないの。
あなたが産もうとしてるのは、犯罪者の子よ。
あなたを襲って、こんな目にあわせた男。
そんな男の血をひく子を、愛せるわけないじゃない!」


母親のヒステリックな声が診察室に響く。
わぁっとハンカチを顔にあてて、泣き崩れる。


「違うよ…、お母さん。
あたしの赤ちゃんだよ。
あたしのお腹の中で、あたしの血から栄養を取って…
あたしの分身なの。
まだ、生まれてないけど…あたし、愛しているよ。」


洋子は静かに、そしてキッパリと言いきった。