飛べない黒猫

「そうだよね…いまさらだよね…
ごめんなさい。
でも、騙そうなんて全然思ってなかったよ。
言えなかったの。
言ったら…もう、一緒にいられなくらるような気がして…
それに、思い出したくもなかった…
早く忘れたかったの。」


洋子は、横を向いたままの彼に話し続ける。


「あたし…悪いことしてない。
被害者なのに。
なんでこんなに辛い目に遭うのかな…」


流れる涙を袖で拭う。


「あなたの子かもしれないから…
ちゃんと話さなきゃって思ってた。
でも、もういい…
迷惑かけない。」


そう言って洋子は彼から離れた。

一度振り向いたが、彼は横を向いたままで洋子を見る事はなかった。




寂しさと、悔しさと…
押し潰されそうな不安のなか、洋子はあてもなく夜道を歩く。





こんなにあっけなく、人の心は離れてしまうものなんだ…


彼を愛していた。
そして愛されていると思ってた。

でも、強姦されたとわかった途端、あんな冷たい目で見られた。

汚いものを見るような目で。

楽しかった日々は…何だったのだろう。
たくさんの優しい言葉も、甘いささやきも。

嘘みたいに、全部消えて無くなる。

あんなに大切にしていたものが、簡単に壊れた。

あたしはこれから、どうなるの?

強姦されて妊娠した子って陰で言われ続ける。
だれも近寄って来なくなる。


もう…どうでもいいや。

…死んじゃいたい。