飛べない黒猫

高校3年の夏休みが終わって、2学期が始まった。

洋子は、受験に備えて塾に通っていた。


帰る時間は9時頃だったから、そんなに遅い時間ではないし、帰り道も街灯のある住宅街だったから特に気をつけていたわけでもなかった。


いつもの時間に、いつもの道を通る、それだけだった。



でも、あの日…

急に目の前に人影が現れて、押し殺したような恐ろしい声で何かを言われ、鋭いナイフをアゴの下に突きつけられた。


あとは、よく…覚えていない。



洋子は、空き地の草むらへと引きずられていった。


ずっと喉にナイフがあたっていて、洋子は逃げることも、助けを呼ぶことも出来なかった。


乱暴に体を触られ、体を擦りつけられる。
痛みと恐怖と屈辱で洋子の目に涙が溢れるが、それを拭うことさえ出来なかった。

真っ暗な空が、ぼやけて見えていた。




男の体が離れる。


ドサドサッと音がする。
男は、洋子のバッグの中身を地面にばらまいていた。



その時、男と目が合う。
手にしたナイフがキラリと光った。


男は感情のない冷たい瞳で洋子を見下していた。

男の持っているナイフが、洋子に向けられる。
殺されるかもしれない…洋子は思った。



その時、近くで人の声がした。
数人の話し声と足音が、こっちにむかって近づいてきた。


男は何か拾い上げて、ニヤリと笑った。
そして洋子からゆっくりと離れ、闇の中に消えた。


洋子は散乱している荷物をバックに戻して、そのまま家まで走って逃げた。