飛べない黒猫

運ばれてくる料理はどれも美味しく、丁度良いタイミングで振る舞われた。


料理を楽しみながらも、皆、真央の反応を心配していた。
だか、真央は思いのほか落ち着いていた。

仲居が出入りする度にソワソワしていたが、発作を起こすような怯えた様子はみられなかった。


普段は寡黙な青田だったが、よほど嬉しいらしく、ますます陽気で饒舌になる。

蓮に勧める酌のペースも早くなっていった。
蓮も心地よい酔いに任せて、青田に付き合う。


「真央、美味しいかい?」


小さな子供に話しかけるように、青田は真央に微笑む。


「この…ゼリー寄せの…これ、なぁに?
おいしい…」


「ビワよ、ワインシロップ漬けね。」


デザートを食べていない青田に代わり洋子が答える。


「煮詰めたワインと漬け込むのね、すごくいい風味…
美味しいわね、真央ちゃん。」


真央もニコリと笑う。


中居が食後のお茶と銚子を数本運んできて、テーブルをきれいに片付けた。

「ごゆっくり、おくつろぎ下さいませ」そう言って、襖を静かに閉める。



少しの沈黙。
青田と洋子の顔つきに緊張が感じられた。

最初に言葉を発したのは洋子だった。




「あのね、蓮と真央ちゃんに…知って欲しい事があるの。」


落ち着いた声で洋子が言った。


「26年前の…
19歳のあたしが、蓮を産むまでのこと。」



洋子は蓮を見つめて、今まで何度も胸の中で繰り返していた言葉をつぶやいた。


「蓮は、あたしの大切な大切な子供なの…」