飛べない黒猫

蓮は御猪口を取り、千代に差し出す。


「こちらのお嬢さんが、真央さんね…
このたびは、有名な芸術展で入賞されたとか。
まだ、こんなにお若いのに…芸術家だなんて、素晴らしいわ。
勝ちゃんも鼻が高いわね。」


「えっ…?
俺、千代ちゃんに。そんな話したっけ?」


青田が驚いて首を傾げた。


「これだけ世間で騒がれていたら、こんな私の耳にも入ってきますよ。
テレビのニュースで紹介されて、勝ちゃんがインタビューに答えていたじゃない。
ちゃんとみてたんだから…」


「…あぁ、そうか。」


青田は照れかくしに、注がれた酒をぐいっと飲み干した。


「あら、あら、そんな飲み方しちゃ…
お料理の前に酔ってしまうわね。
すぐに運ばせますから…」


千代は、もう一度、青田に酒を注ぎ、「後はお願いします」と洋子に微笑み席を立ちかけた。


「あ、そうそう…3日前かしら、岡田さんがいらしていたわ。
お店に見えたの1年振りかしら。
また、お痩せになってて…仕事忙しいの?」


「えっ?…あぁ…神経質な男だから…。
仕事が立て込むと、げっそりしてしまうんだね。
精のつくもの食べさせてやってよ。」


「ほんとね。
一緒にいらした方も、痩せたかただったし…
記者さんだって言ってたわ、会社の広報の打合せだったのね。
この不景気な時期に、忙しいのはなによりね…」


仲居が入ってきて料理を並べ始める。


「それでは、ごゆっくりお食事くださいませ。
また、後ほど…」


千代が出て行くと、青田は神妙な顔になる。


「記者…痩せた男…だって?」


ポツリとつぶやいた。