暖炉の中で薪がパチンと音を立てた。

小さく赤いひばなが跳ねたが、暖炉の前の黒猫はラグマットに寝そべったまま眠りこんでいる。
それでも微かに動いた両耳だけは、敏感に辺りをうかがっているようだった。



少女はスケッチブックの上に鉛筆を置いて、黒猫を眺める。


ぐっすり寝入っていたはずの猫は、長いヒゲをピクピクと動かした。
そして、ゆっくり目を開け少女をみつめ返す。

深い緑の目で。



いつもそうだった。


お気に入りの出窓のふちで、どこからか迷い込んだスズメの動きを必死に目で追っている時でも、
フカフカなソファーを独り占めして、その艶やかで柔らかな真っ黒い毛並みを綺麗に舐め揃えている時も、
猫は必ず少女の視線に気がつくのだ。


少女の気持ちも行動も、当然理解しているとでも言いたげに、常にその後を軽やかに付いてまわった。



少女は、やさしく微笑み視線を戻す。

スケッチブックには、おびただしい数の蝶の絵。


立体感の無い平面的なデッサン。
鉛筆で描かれたその絵は、濃淡が無く線の太さも統一されていた。

少女は緻密で繊細なモノクロのデザイン画から、今度は窓に目を向け…ふうっ、と溜息を漏らした。



窓の外は雨。
夜更けには雪になりそうなほど、寒い。

薄暗く暮れ始めた空には、重く低い雲。
少女はボンヤリと遅い雲の流れを見る。


柱時計が時を打つ。
チラリと時間を確認した。

そして、もう一度、深い溜息をついて…
ゆっくりと部屋を出ていった。


黒猫も後を追ってドアの隙間をスルリと抜けた。