寺の周りは、人家の他何も無かった。
かつては栄えた漁港だけあり、小さな波止場がに点在していた。その手前には、腰くらいの高さがある防波堤が、ずっと先まで続いていた。
玉泉寺から少し離れた時、不意に母が口を開いた。
「わかるでしょ?」
「…え?」
「永山家って、ああいう家なのよ。」
私は何が何だか分からず、私を見つめる母の顔を見つめ返した。
「何のこと?」
「雅博さんと挨拶に行った時もそうなのよ。何かこう…家族間での関わりが物凄く近い、っていうか…」
「仲がいいんじゃないの?」
「それは…そうなんだけど…」
母も雲を掴むような話ぶりで、語尾を濁した。
それから数分間、私たちは無言で防波堤の際を漫ろ歩き続けた。波の音に紛れて、鴎の鳴き声も聞こえてくる。さっきまで顔を出していた太陽も、今は分厚い雲に隠されてしまった。
「あ、あそこどう?」
私は沈黙を破ろうと、真っ直ぐに続く道の脇に見えている料理屋を指差した。
「そうだね。これ以上行くと、式までに帰れなくなるかもね。」
母は私の提案にそんな風に受け答えて、しかし、沈黙は再開された。