寺に帰ってみると、親族や友人たちはみな控え室から出て、お堂へと向かっていくところだった。私たちもその後に続いて、いそいそとお堂の中に入った。
お堂の中は、控え室とは対照的に古く、しかし立派な仏具で揃えられていた。板敷きの床は何十年も毎日毎日拭き清められたからか、まるでワックスでもかけたかのように光を反射していた。天井には仏教に関わり深いだろう絵が描かれており、照らす明かりがろうそくでなく白熱電球であることに気がつかなければ、まるで江戸の昔にタイムスリップしたかのような気分になる。
私たちが親族席に座ると、まもなく僧侶が奥から出てきた。母は急いで数珠を取り出すと、私に渡した。私はそれを右手にひっ掛けると、手を合わせ、眼を閉じた。