海までの距離

今まで居酒屋なんて行ったことのない高校生の私は、ぼけっと有磨さんの横に突っ立っているだけ。
ライブハウスがあるここ、古町（ふるまち）には、カフェやらファミレスやらが雑多に軒を連ねているけれど。


「うーん、下手な店選ぶとファンの子と鉢合わせしちゃうかもしれないし…」


有磨さんは暫く一人でうんうん唸って、


「しょうがない！駅まで行こう」


私の手を引いて、歩き出した。








古町と新潟駅周辺は信濃川を隔てていて、１本橋を渡る必要がある。
バスも通っているが、私達は１５分くらいのんびり駅まで歩いた。
橋沿いに並ぶ外灯や店のイルミネーションが綺麗で、その奥に黒く日本海が見える。
道すがら有磨さんと話したのはハーメルンのことで、海影個人のことはあまり話題にはしなかった。
有磨さんがどう思っているのかは知らないけれど、なんとなく、有磨さんと海影の関係についてあれやこれやと尋ねるのは不躾な気がしたから。
新潟駅が見えてきた辺りで、有磨さんは駅前大通に面している居酒屋に入った。
初めての居酒屋に、未成年の私は入口でびくびくしたけれど、拍子抜けするほどあっさり入店できた。