海までの距離

それなのに、自分の高ぶる感情とそんな言葉達をどうにかして構築して言い表したいと感じる。
揺れるファンの人混みに埋もれて、海影の上半身しか見えないのがもどかしい。
私はハーメルンの出番が終わるまで、食い入るようにステージを、海影を見つめていた。







熱くほてった頬に、夜風が気持ちいい。
ハーメルンのライブが終わって、私達は即座に会場を後にした。
あと2つのバンドのライブが残っていたが、何故だか観る気にはなれなかった。
それは有磨さんも同じだったらしい。
4人が舞台袖に戻っても、ずっと恍惚とステージを見つめる私に「外、出ようか」と声をかけてくれたのは、有磨さんだった。
ハーメルンのライブが終わったタイミングで会場の外に抜け出たのは、私達だけだった。


「海影が、先に居酒屋に入ってて欲しいって」


いつの間に海影とコンタクトを取っていたんだろう。


「どこでもいいよねえ?」


なんて言いながら、有磨さんはきょろきょろと当たりを見回す。


「この辺りのお店にするんですか?」