海までの距離

先にステージに出てきた3人がそれぞれの楽器を手にし、スタンバイしたところで、女の子のような小柄なシルエットを引きずって、最後にミチのお出まし。


「新潟、初めまして!」


男性にしては少々高めの声を張って、ミチが笑んだ。
4人の中で一番背格好が小さいのに、ステージのセンターに立つその存在感たるや。
前言撤回――贔屓目で見て、春は昨今のビジュアルシーンでずば抜けて可愛いけれど、その愛らしさで言えばミチも全く負けちゃいない。
ミチの挨拶に次いですぐ、ミッドメロウなサウンドが始まった。
圧倒される程の何かを孕んでいるミチに私は釘付けになっていたけれど、ベースの音が会場に響いて、はっと我に返ってミチの隣に視線を移す。
たかだか一週間ではあったが、私が会いたいと渇望してやまなかった海影が、そこに居た。
伏し目がちにベースに視線を落として、奏でられる音はベースとは思えないほどメロディアス。
その海影から感じる色気と言うか、艶と言うか。
簡単な言葉で表せるそれじゃない。
洗練された雰囲気は、到底こんな田舎で培われたとは思えない。
海影を言い表すのに様々な形容詞が浮かぶ、でも、どれもそんな言葉じゃ表しきれない。