「別に、海影が私に気付こうが気付かなかろうがどっちでもいいや。ライブは、私が海影を観るんだもの」
有磨さんの返答は、些か予想外だった。
その女性らしい格好も、海影に良く思われたいだけのそれだと思っていた。
勿論、少なからずその気持ちは絶対あるとは思うけれど、それが全てではないんだろう。
大人なんだ。有磨さんは。
会場にスモークが薫り立ち始めた。
ステージ前の柵を入れ替わり立ち替わりしていた女の子達の、動きが止まる。
「そろそろかな」
「そろそろですね」
私と有磨さんがドリンクの紙コップを床に置いた瞬間、電気が消えた。
「!」
会場に、一斉に歓声が響いた。
メンバーの名前を呼ぶ、つんざくような黄色い声。目眩がする。
ステージ袖から、雑誌で見たままの姿の凪と緒方ライが……そして、海影が現れた。
「海影…」
遠目からでもよく分かる、脆弱そうな体つきに、小さい顔。
はっきりした顔立ちこそ見えないけれど、そこに、海影がいる―そう考えただけで、背筋がぞくりと奮い立つ。
会場の中は薄暗いのに、私にはステージが眩しかった。


