海までの距離

今ここに私がいる、その道を示してくれた人。


「ここじゃあ、色気もへったくれもないだろ」


後ろをついていく私の方を見ず、海影さんはそう言った。


「…新幹線の中だって、色気はないですよ…」


ホームに出ると、私達以外に人は殆どいない。
出張なのか、サラリーマンがちらほらいる程度。
新幹線はまだ来ていなくて、海影さんはベンチに座った。
私もその隣に腰を下ろした。


「おっしゃる通り。じゃ、東京に着いてからかな?」

「そんな!」


叫ぶ私に、「ほれ」と手渡されたお茶。
海影さんの意図するところが理解できない。
まるで私の今から言おうとすることを拒絶されているようで。
そう思うと途端に悲しくなって、私は両手でお茶を握り締め、俯いた。


「それなら、色気はないけどここで。但し、真耶の話は後。俺が先。こんなチャラい外見でも、こういうのは慣れてないんだから、せめておっさんから言わせなさい」

「おっさんって…」


20代前半でそれはないですよ――そう言おうと顔を上げたら、数センチ先に海影さんの顔。
細く透き通るような髪の毛の先が、頬を撫でた。
唇には甘い感触。
突然のそれに驚いて、目が点になる私の耳に聞こえた言葉は。




「真耶、大好き」







END.