「ホームで待ち合わせって、言ってたのに!」
噛み付くように言ってみたものの、海影さんへの高ぶる想いの方が何十倍も何百倍も勝ってしまって、何の意味もない。
「待ちくたびれたっつの」
唇を尖らせる海影さんに、私は慌てて時計に目をやる。
おかしい。待ち合わせの時間まで、まだ10分はある。
「早く真耶に会いたくて、もう1時間も前から駅にいたんだよ」
海影さんの言葉に、私の感情の琴線がはかなく切れた。
「海影さん、あのっ…!」
「あー、話は後だ後。新幹線の中で聞くから」
言いかけたそれを、海影さんはあっさりと遮断。
お茶とオレンジジュースを入れたビニール袋をぶんぶん揺らしながら、ホームへ続くエスカレーターを昇っていく。
3ヶ月しか間が空いていないから、当然と言えば当然だけど、海影さんらしいものは何一つ変わらない。
ざっくり編まれた大きめのロングカーディガンが、華奢な身体によく似合う。
その裾から覗く、じゃらじゃらした重たそうなチェーンやらなにやら、そこに加えて、煙草と香水が混ざった匂い。
私はその背中を、小走りで追いかける。
どこまでもどこまでも、追いかける。


