「Lilyも瑪瑙もJIGSAWも大好きだけど、海影個人には勝てないよ。私の中ではね」
そんな話をしているうちに、私達の前の女の子達が前へと進みはじめた。
今日のライブが始まる―。
ハーメルンの出番は4番目らしい。
有磨さんはそんなこともきちんと知っていた。
私達は先にドリンクを引き換えて、会場の一番後ろで壁に寄り掛かって、聞き覚えのないバンドの演奏をぼんやり見つめていた。
演奏が上手か上手じゃないか、私には今ひとつ分からないけれど、私の心には響かない。
「やっとハーメルンですね」
「もー、待ちくたびれちゃったあ」
やはりヒールは慣れないのか、有磨さんが拳でトントンと自分のふくらはぎを叩く。
バンドとバンドの転換の間は、カーテンが閉まってステージが見えない。
時折、ギターやらベースやらの試奏の音が細切れに聞こえる。
あのカーテンの向こうに海影がもうスタンバイしているのかもしれないと思うと、自分の血液の流れがドクドクと音を立てて早まるのがよく分かった。
「こんなに真後ろに居たら、海影、有磨さんに気づかないんじゃないですか?」
有磨さんと会話していないと、胸の高鳴りで押し潰されそうで、私はどうでもいいことを口に出してしまった。


