海までの距離

海影さんとの会話に夢中で、バス停はもう目の前。
そしてタイミングがいいのか悪いのか、ちょうどバスが停留所に来た。
バスの出発まで、あと5分。


「3月にイベントがあるから、そこで新潟に1度帰れるな」


3月は遠い。
それでも、海影さんは自分の夢の為に毎日を駆け抜ける。


「…新潟の冬の海は、寂しいです…」


ぽつりと呟いた私の声は、幸いにも海影さんに聞こえてないようだった。


「さて、真耶。元気にしてろよ」

「海影さんこそ、風邪引かないで下さいね」

「次で会うのは東京だな。東京なら、今よりずっと真耶に会える」


さらりと言ってのけた海影さん。
意味深長なそれに、私はどう応えていいか分からない。
と、同時に手首のブレスレットに気付いた。


「そうだ!海影さんにブレスレット返さなきゃ!」


慌てて手首に指をかけるが、海影さんは“?”といった様子。


「これっ!有難うございました!」

「…ああ!」


海影さんに差し出して、海影さんは漸く気付いた。
まさか、忘れていたんじゃ…。