海までの距離

私達の輪にしか聞こえないくらいの小声で、答えた。


「ええええ!」


そんな有磨さんの意図に瞬時に気付けず、うっかり声を張り上げてしまった私。
有磨さんが慌てて「しーっ!」と自分の唇に人差し指を当てる。


「す、すみません…」


そうだ、今ここにはビジュアル系バンドが好きな女の子達で溢れ返っている。
海影のこと、ハーメルンのことが好きな子達も少なくはないだろう。
そんな子達に、この話が聞こえてしまったら…。


「ほんと、まだ未定だけどね。真耶ちゃんが、都合悪くなければ」


成る程、制服で居酒屋なんて行けっこない。
……いやいや、それ以前に何故有磨さんがハーメルンの打ち上げに行くなんていう話が浮上しているのだろう。
同郷の海影が関係しているのかな、そのセンが一番強い気がしたが、あまり貪欲に質問攻めをするのも有磨さんに失礼なので、私は口をつぐんだ。
本当は気になって仕方ないくせに。


「お。暁葉からメールだ」

私と有磨さんの話の間、携帯をいじっていた京さんが口を開いた。


「仕事、終わったんですかね?」

「そうみたい。今からこっちに向かうって」


京さんが長い爪を携帯にカチカチ当てながら、暁葉さんに返信している。