「すみません、海影さんのご紹介で…」
いつか有磨さんがそう言ってゲストパスを貰っていたのを思い出し、同じように声をかける。
「お名前をどうぞ」
「久住真耶です」
女の子の1人がぱらぱらと手元の紙をめくり、何やらマーカーで線を引いている。
あったんだ、私の名前…。
あって当たり前なのに、私には奇跡だとしか思えない。
「ライターさんですね。パスは見えるところに貼って下さい」
手渡された小さなステッカー。
私にとって、これは特別なもの。
ニットの裾に、それを貼る。
ここでは、私はライター。
このライブは仕事なんだ。
鞄を肩にかけ直し、入口の扉を押す。
中にはもう既に3分の1くらいお客さんが入っていた。
ええと、後ろの方後ろの方…っと。
少し見回すと、“関係者席”と書かれてロープが張り巡らされている一角があった。


