海までの距離

但し、その日の最終バスないし新幹線に乗って帰ってくることが条件。
それでも十分だ。


『それでな、お前その日俺達のライブレポート書いてくんないかな?』

「…へ?」


青天の霹靂。
ライブレポート?どういう意味だ?


『その日、ディレイのライブ取材が入るんだよ。インタビューは何回かあったけど、ライブ取材は初めてでな』

「やったじゃないですか!」

『んで、俺はその“初めて”を真耶に書いて欲しいのよ』

「…はい?」

『俺達のことをよく知った人間に、俺達のことを書いて欲しいんだ。お前の文章表現力は前に読ませて貰ったライブレポートで知ってる。だから、真耶にお願いしたい』

「いやいやいや、嬉しいお言葉ですけども!」


嬉しいお言葉だけども、折角プロのライターさんがハーメルンのことを書いてくれるというのに、何故私なんかが。
自信がないわけじゃない。
でも、大手雑誌のディレイが用意するライターさんに書いて貰った方が、ハーメルンの為にはいいのでは…。
海影さんは、そんな私の心情を察知したのか、


『お前の記事が読みたいんだよ。豊かな表現力持ってんだ、できるだろ?』


そう褒めちぎってきた。
最後の「できるだろ?」の言い方があまりに優しくて、それ以上の反論が出てこない。