海までの距離

話の前半部分は聞き流すとして(本当は嬉しくてたまらないけど)、後半部分は感心してしまう。


「海影さん、本当にいい人なんですね」

「いい人ってレベル通り越してるでしょ。でもね、それを知っている女の子はごく僅かだと思うよ」

「海影さんが、遊び人じゃないから?」

「そっ。知り得る手筈がない。海影はファンからしたら寡黙でクールな印象があるかもしれないけれど、蓋を開ければああいう人なのよ」


その蓋を開けることができて良かった。
私、海影さんに認めて貰ったんだ…。
有磨さんが自分のことを話してくれたんだから、自分も本当のことを話した方がいいだろうか。
一瞬そう考えたけど、やっぱり私は口をつぐんだ。
だって、そしたらまるで後出しジャンケンみたいだ。
だからその代わり、これからのことを、沢山話そう。


「さて、そろそろ皆の所に戻ろっか」

「そうですね」

「その前に、トイレ行ってくるね。先に戻ってて」


有磨さんは壁から背中を離した。


「そんな訳で、私と海影には後にも先にも色っぽい関係は一切ないし、ついでに今は海影に彼女はいないから。気にしないでねー」

「え!?」


有磨さんはさらりとそう言ってひらひらと手を振って、トイレに向かっていった。