海までの距離



「海影!ハーメルン!ディレイに載ってたあ!」


思わず私は手を叩いた。


「載ってた載ってた。私、さっき本屋でディレイ買ってきちゃったよ」


うふふふふー、と楽しげな笑みを浮かべ、要さんが自前のシャネルのトートからディレイを出した。
Lilyが表紙を飾るそれのページをばさばさとめくると、丁度雑誌の真ん中くらいのカラーのページに見開きでハーメルンが。
4人の集合写真が1ページ、インタビューが1ページ。
「おおー!」と、私達の感嘆の声が響く。
写真に“海影”と名前を入れられた人物は、肩まで伸ばした薄茶のストレートと黒目の華奢な青年で、黒いフリルブラウスを着ている。
一緒に写っている短い金髪のボーカルや鋲を沢山あしらったベロアのロングドレスのドラマー、シルバーグレーの髪をアシメトリーにして赤いメッシュを入れたギタリストが華やかで、4人の中で海影が一番目立たない。
バンドマンの癖に、取り立てて特徴の無い外見。
それなのに、一番最初に目を引く程に端正な顔立ちをしていた。
切れ長の目、すっと通った鼻筋、薄くて紅い唇。
ビジュアル系バンドマンには有りがちの顔立ちなのに、いやに「綺麗」と感じる。