海までの距離

今日は宇都宮に泊まるって言ってたから、もしかしてもうホテルにいるのかな。


「宇都宮はいかがでした?」

『前にライブした時よりお客さん増えててさ。びっくり!』

「だって、そりゃあ、今ハーメルンの新曲は絶好調の評判ですから」

『そうなの?俺は田舎者だから知らなかったわー』


そらとぼける海影さんに、やれやれと溜息。
それでも、お客さんが増えてるというのはいいことだ。
ハーメルン、成長期。


『新潟はもう寒いか?』

「んー…まだそんなには。朝晩は冷えますけどね」

『東京はまだ寒くはねぇな。宇都宮も』

「海影さん、もしや新潟が恋しくて私に電話してきたんですか?」

『当たらずとも遠からず』

「素直だなあ」


わたしが笑うと、海影さんも「ふはは」と笑ってくれた。


『俺達なんざ、年中あっちこちでライブやってるから、季節が一巡りすんのがあっという間だよ』

「そっか」


ふうっと小さな溜息みたいなものが聞こえる。
海影さんが煙草を吸っているんだ。
目を閉じれば思い出すのは、海影さんに初めて会った時の夜の、車の中。