海までの距離

時間が限られているというのに、海影さんの口調は穏やかでゆったりしている。
私はその海影さんに反するように、時系列を省いて、


「書類選考、通過しました!」


結果だけを、一気に言った。


『うお!やったじゃんか!』


海影さんの声が、脳内にぐわんと響く。
聞いたことのない、嬉々とした高い声。


『うぉーい、ライ!真耶が受かったぞ!』

『マジ!?』


海影さんが早とちりして、ライさんに誤報を伝達している。


「ちょっ、海影さん海影さん!まだ面接が残ってますから!」

『あ、そっか』

「まだ安心できないです」


私が苦笑を漏らす。
すると海影さんが、


『大丈夫。真耶なら絶対、大丈夫』


力強く、そう言い切った。
確かなビジョンを見据えている海影さん。
その海影さんが私に時折言い放つ、曖昧な“大丈夫”という言葉。
根拠なんてこれっぽっちもないのに、何故か本当に大丈夫のような気がするんだ。


『いつだっけ?面接』

「来週の土曜日です」