海までの距離

郵便物を受け取るのはお母さんの日課。
だけどその日はお母さんが夜までお友達と遊びに出ていて、裕は部活だし、一番最初私が家に帰ってきてそれを目撃した。
サインペンで書かれた細い字。
綺麗な字じゃない、でも、汚くもない、特徴のない字。
それがなんだか海影さんらしくて、海影さんに“真耶”と書いて貰ったのがやけに嬉しい。
自室に行って慎重に鋏を入れる。
期待はしていなかったが、手紙なんて入っていない。
エアパッキンに包まったそれは、売り物と同じ状態のジャケットのCDが1枚。
“非売品”というラベルが表面に貼ってある。
包装フィルムをこれまた慎重に剥がし、中を開けると、CDとDVDの2枚が入っていた。
CDは後で聞こう。まずはPVが観たい。
私はリビングへと向かい、DVDレコーダーにそれを入れた。
痛いくらい鼓動を打つ心臓を押さえ、リモコンを操作する。
そして現れた映像は、


「う、わ…あ…」


古いゴシック調の洋館に、和服を着流した4人。
ディレイのインタビューでは「古きよき和洋折衷」だと作詞・作曲を手掛けたミチさんが言っていた。
イメージは明治?ああ、でも分かんない、今すぐ海影さんに聞きたい!