海までの距離

そして、ライブ後には「いやー、暴れた暴れた!」なんて満足げな笑顔で、缶ビールを煽っている。
ライブハウスのドリンクチケットで引き換えたそれだけじゃ足らず、大概コンビニでもう1本買い足して。
そういう白乃さんの媚びないスタイルが、私は好き。


「聞いてくださいよ白乃さん!ほらっ、奇跡の9番!」


私は鞄から得意げにチケットを取り出す。
JIGSAWにはファンクラブが無いから、優先的にチケットを入手する術がない。
いい整理番号が自分に廻って来るか否かは運次第。


「いいなー!私と要は200番台だよぉ」


白乃さんが眉毛を八の字に歪めた。心底残念そう。


「有磨ちゃんと私は50番台」


と、レナさん。


「暁葉と私は23番と24番だから、真耶ちゃんと近いね」


と、京さん。
仲間内で自分が一番早い整理番号を持っているなんて、優越感。
9番なら、きっと最前列行ける。春の前だって陣取れるはず。
憧れの春はどんなふうにギターを弾くんだろう。
きっと生のリアルな春は、雑誌で見るよりもずっと可愛くて、私はまた春に惚れちゃうんだろうな。
腕とか腰とか、凄く細そう。
…私、妄想が爆発してるじゃん。
これじゃあ春を拝むまでにボルテージ振り切っちゃう。