ジャー・・
ジャー・・・・


アタシは洗面台に頭を突っ込んで、

背後に立った那智がアタシの髪を泡立てる。



髪くらい一人で洗えるのに・・・・


「俺さ、中学ん時先輩に目つけられててさ。」


「・・・・・」

那智が急に話し始める。

アタシは目を閉じたまま、那智の優しい声と水の音を聞いてた。


「喧嘩ふっかけられて。10人位かな?囲まれたんだー。」


「うん。」

相槌を打つと同時に、那智の指が優しくアタシの髪をかき上げた。


「ほら。拭くよ」

「ん。」


タオルで優しくアタシの髪を拭きながら、話しを続けた。


「高貴がさ、助けてくれたんだ。2対10で圧勝。強いでしょ?俺ら。」

フフッと笑った那智に、笑顔を返した。


「でもね、そのせいで高貴、指痛めちゃって・・・・・」


「・・・・・」


タオルをそっと下ろして、悲しく微笑んだ。


「俺のせい。あいつがバイオリンやめたの。」


「・・・・・」

何も言えないアタシに、那智は何事もなかったかの様にドライアーを取り出す。


「乾かすから座って」



那智がアタシの髪を乾かしながら、何か呟いた気がした。


「え?」


聞き返したアタシに、那智は苦笑いをしただけで、何も教えてくれなかった。