「村瀬さんは若い頃にオカルト雑誌の取材で久慈律の話を知ったんだ」

圭吾さんが渋々話し出す。

「調べていくうちに自分が律の子孫だと知ったらしくてね、その仕事の後もずっと律について調べていた。そして、あの肖像画を手に入れたんだ」


鹿鳴館の魔女、久慈律

幕末のどさくさで出生は不明。

幼い頃に横浜の貿易商、内藤伝衛門宅に奉公。

十七歳で内藤家の長男と結婚し一男をもうけるが、夫、義父が相次いで病死。

この時の子供が村瀬さんの母方らしい。

子供を婚家に残し、内藤家と懇意だった久慈男爵の後妻に収まる。

その後、男爵も病死。

久慈男爵の長男が男爵毒殺の疑いを訴え出たが、律は逮捕直前に失踪し、そのまま行方知れずになったという。

当時の噂では、律は内藤家に出入りしていたフランス人から黒魔術を教わり、魔術で男爵をたぶらかしたとか、毒殺ではなく呪い殺したとか言われていた。


律の肖像画を手に入れてから、村瀬さんの奥さんは人が変わったようになったという。


「お母さんを亡くした志鶴をしつこく養女にしたがったらしいね。だが叔父さんが頑として譲らず、志鶴を連れて引越す事にした。落雷があったのは引越しの日の事だ」


圭吾さんは反応を探るようにわたしの顔を見た。


「続けて」


「奥さんが亡くなった後、村瀬さんは律の肖像画は納戸の奥にしまい込んでいた。それが去年、未亡人になって同居することになったお姉さんが肖像画を見つけて、自分の部屋に飾った――その後は知っての通りだ」


「ふうん、そういう話だったんだ」


あっ、声がうわずっちゃった


「言わんこっちゃない」

圭吾さんが顔をしかめた。


「まだ当分一緒に寝てもらえるんじゃない?」

悟くんが陽気に言った。