ザ、と風が吹く度に花びらが
舞い上がり、それが夜空の
満月と重なって見えた


・・・この世のものとは思えない
くらいにすごく綺麗だった


ライトアップされているわけでは
ないのに、この桜の樹自体が淡く
光っているようにさえ見える

そっとその木の幹に触れると
懐かしさがこみ上げた

・・・良かった

10年前と変わらずに、ここに
いてくれて

あの時と少しも変わらずに
咲き続けてくれて

本当に良かった


安堵しながら、私はその木に
寄りかかるように座る

時計を見ると8時半だった


「(・・・拓哉は・・・)」