目の前の薄暗い待合ロビーの長椅子から、黒い影が立ち上がった。 「霧子?」 その声を聞いた途端、わたしは我を忘れその声の先に向かって走っていた。 それが恋だとか、愛だとか、好きか嫌いかなんて関係なく。 わたしは純粋に山之辺正哉を求めていた。 彼がそこにいたことが嬉しかったのだ。 わたしにしては珍しい感情がそこにあった。