白く輝く姿は血まみれで汚れていた。





村人は叫ぶ。





主は容赦なく切り裂いた。





「お前のせいだ!」
槍や鎌が飛び娘に刺さる。




主は咆哮をあげ、白い体は赤く染まる。





娘は湖に落ちていく。





赤い竜も湖の中に落ちていく。





娘は竜の瞳に触れた。
娘の血が湖に溶けていく。




竜の瞼が持ち上がり綺麗な瞳が見えた。
空の色…。





空色の瞳は娘の鱗を映し出す。





湖に雨が降り、小さな湖は溢れて濁流は小さな村を飲み込んだ。





小さな湖は大きな湖になり、名前を「赤涙湖」と呼ばれるようになる。





湖には必ず雨が降り湖の色が赤く染まることがある。





ここら辺では有名な民話だ。





病気の静養の為にこの町に来ている。
有名な医者がいるらしくここに来た。





「今日は雨が降ってますよ。」
看護師が言う。





「そうですね…。」
言われなくても音と臭いで解る。





手術を受ける…。でも死ぬかもしれない…。
なんて言ってる両親の声が聞こえた。
聞きたくない声も全て聞こえてしまうから困る。
このままここにいてもしょうがない…。





病院を抜け出した。





静養というだけあるのか空気や風がここはすがすがしい。





何かがぶつかり、点字ブロックがわからなくなった。
土のにおいがする。





キキィ…。





「!」
突然、何かが肩に当たる。





ガタン!
「?!」






「大丈夫?!何処か怪我してるの?」






「あっ…。大丈夫。」
わたわたと焦りながら手探りでスティックを探す。





「あの?どこまで行くの?あんまり見ない顔だね?」





「湖に行きたいんだ…。」





「人魚の像のとこ?乗せて行こうか?あっ…。」




スティックがぶつかったらしい。
「ごっごめん!」





「肩につかまって…。ここだよ。それとも手を…。」





手首をそっと捕まれた。
女の子とわかる小さな手。





突然、何か耳鳴りがしてふらつく。





「大丈夫?」
顔が目の前にあった…。
可愛い女の子…。
黒髪に黒い瞳…。
ナチュラルワンピースが似合っていた。





「君…。」




にっこりと微笑んだ彼女は言った。
「私は南田那美。自転車は…。ここに置いて。」