ありふれた恋を。


『ごめん、やっぱもっとオシャレなレストランとかでするべきだったか?』

「夜景の綺麗なレストランで、サプライズのケーキが出てきたりしてね。」

『あぁ…だよなぁ。』


いつかドラマで見たワンシーンを思い出しながら言う。

あのとき抱いたほのかな憧れも、この幸せの前では何の意味も持たなかった。



「でも私にとっては、世界一幸せなプロポーズだったよ。」


今頃反省して項垂れる弘人さんに言った言葉は慰めでもフォローでもない、正真正銘の本音だった。



「おじいさんとおばあさんになっても、手を繋いで歩ける2人でいようね。」


そっと弘人さんの手を取って、ぎゅっと握る。


この手を一生放さないと、その温もりを感じながら思う。

どんなときも2人で、何があっても支え合って生きて行こうと。

柔らかく握り返された手を信じて、これからもずっと傍に居ようと。


私たちの新たな日々が始まったこの瞬間を、私は一生忘れないだろう。



ーFin.ー