「別れよ」

「……あぁ、わかった」

「もう、あたしを見てくれない冬威に耐えられない」

いつまで我慢すればいいの?いつになったらあたしを見てくれるの?あたしのどこがいけないの?いつまでその幼なじみを追い掛けるの?

「見つかるまで」

最後の質問にだけ応えると、彼女は顔を真っ赤にして怒って俺の顔を叩いて、立ち上がって去っていった。

彼女と付き合ってから、たしか三ヶ月。まだ長いほうだ。名前は和井田華月。成績も優秀で運動も出来る、見た目も整っていて、スタイルも抜群。そんな完璧な女にふられた。

「………ふぅ」

オレはため息を吐きながら椅子からずれるように腰掛けた。

そんな完璧な女にフラレたのに、ひとつも後悔していないし、悲しくも、辛くもない。いたいのは胸じゃなくて、叩かれた右頬だけだ。

人気のない店だったから、人からの視線は少なかった。

机に汗をかきながら鎮座しているコーヒーの入ったグラスをコン、と人差し指で弾く。汗がどっ、と机のうえに落ちて水溜まりを作る。

華月が座っていた向かいの席を見ると、少しも手の付けられていないミルクティー。オレは何気なくその白黄の液体が入ったグラスを持つ。汗が指を伝って落ちていく。また、水溜まりができて、オレのグラスの水溜まりと溶け合った。

少し飲むと、解けた氷の水の味がした。



そんな夏の暑い日だった。