危ない家庭教師〜美男兄弟の誘惑〜

「そうか。俺、飲んじゃったから送っていけないなあ。母さん……」


母が瞬時に嫌な顔をしたので、私はすぐに、


「電車で帰るから大丈夫だよ」

と言った。


「そうか? 気をつけてな?」


「うん」


部長さんと奥さんにご挨拶をし、ふと涼を見たら涼もこっちを見ていた。


結局、涼とは一言も話せなかったな……


そう思ったら悲しくて、鼻の奥がツーンとなったけど、私は無理に笑顔を作り、涼に小さく手を挙げた。


そしてクルッと背を向けると、足早に来生家を後にした。


天気と同じく、私の心はどんより曇っていた。


こうなる事が、何となく分かっていたのかもしれない。だから、最初から私は気が進まなかったんだと思う。


泣きたい気持ちで駅への道をとぼとぼ歩いていたら、不意に誰かに肩をムズッと掴まれた。