‐ん、待てよ?
「ねぇミラン、私一つ疑問が出てきたんだけど」
「へぇ?なーんにも考えてなさそうな単細胞のあなたが疑問?何?」
「いちいちむかつく言い方するのやめてほしいんだけど。いや、シンデレラってあだ名だよね?昔おとぎ話で読んだときはそうだった気がするんだけど…本名ってないの?」
「あんたの割に良い質問!!」
「だからそれがむかつくの!!!」
きーっと怒りをあらわにする若菜とは対照的に、ミランは少し満足げな顔で答えた
「それね、私も不思議だったの。でも聞くと、アイリス率いる女三人衆は最初から彼女のことをシンデレラ、つまり灰被りって呼んでるの」
「え、でもお父さんは?さすがに娘のことをシンデレラなんて呼んだりしないでしょ?」
「それがね…これもアイリス様に聞いたんだけど、」
「またかよ」
ミランがアイリスから聞いた話と、伯爵家に元からつかえている召使たちに聞いた(いつのまに!!!と若菜は思ったが)話を総合して考えるに、こういうことらしい
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旦那様もとい伯爵は、伯爵の本妻であった今は亡きローズを心底愛していた
愛しすぎていたがゆえに、彼女の死を受け入れることを拒否し続けた
シンデレラはそんな父の様子を心配し、嘆き悲しみ寝込む父のそばで懸命に慰め続けたという
しかし皮肉なことに、シンデレラの顔はローズの顔にそっくりだったため、伯爵は苦しみから逃れるためにシンデレラの中にローズを見るようになってしまった
それからは自らの救いの為にシンデレラのことをローズと呼ぶようになった
何年も呼び続けているうちに、伯爵も、ついにはシンデレラ自身でさえも自分の名前をすっかり忘れてしまった
召使は一人娘だったシンデレラのことは「お嬢様」としか呼んでいなかったし、逐一自分の名前を紙に記録するような年齢でもなかったため、自分の名前を思い出す手段がなくなってしまったという
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「と、いうわけ。さすがに今はアイリス様の手前もあって、シンデレラのことをローズとは言わなくなったみたいだけど。最初のころは思わずそう言っちゃったこともあるみたいで、その度に不愉快極まりなかったって、アイリス様は言っていたわ」


