二人はようやく話し声が聞こえるところまで近づいた
「まだちょっと良く見えづらい…」
「これ以上は危険だわ。こっちが見つかってしまう」
若菜は渋々ながらも、姿を知られないように細心の注意を払いながら王子の様子をうかがった
-「あの女性だけど、もう何週間も喋ってくれないんだ。どうやら声が出ないらしい」
-「海岸で見つけたあの綺麗な方よね。気の毒に…」
-「医者が言うには、のどには全く異常がないらしいんだが」
「ミラン!」
若菜が困った顔でミランに振り向いた
バルコニーに一緒にいた女性はカレンではなく、王子を“助けた”とされている女性だった
ミランは目で合図をして、二人は再び会話に集中した
-「何も話せないのでは、どうしていらっしゃいますの?」
-「筆談もと考えたのだが、拒否されてしまってね。とにかく素性は何も分からない」
それもそのはず、海の世界には紙やらペンやらはないのだから、カレンが字を書けなくて当然なのである
若菜はカレンの戸惑いやもどかしさが分かるような気がした


