パレット


ん? お母さん……?


『弥白?』

「もしもしお母さん? まだ仕事じゃ」

『急に日程が変更になったのよ。それよりどこにいるの? あんたメール見た?』

「わっゴメン気付いてない、えっと、今ちょっと……ご飯は食べ終わってて、もう少しで家に着くんだけど」

『何してるの? もうすぐ9時なんだけど?』

「えっと……あ、すみません、あとどれくらいで着きますか?」


「ん? あと、10分……はかからないかな」

乗るときに目的地をわたしの家にセットしたカーナビを見ながら、お兄さんが答えてくれる。


『誰か一緒なの?』

「すぐ、あと10分以内には着くから、話はそれからでもいい? ごめんね、切るね」


なんとなく、この会話を神林兄弟には聞かれたくなくて、わたしはすぐ電話を切った。


まずい……今のは怒ってる声だった……どうしよう。

メールを開くと9時には帰るというだけの簡単な文面だった。

でもそれが意味することは……。


「笠原? 大丈夫?」

神林くんが心配そうにのぞきこんでくる。


「あっ、うん、大丈夫。あの、よかったら駅前で降ろしてもらえませんか」


「え? お母さんいるんじゃないの? 遅くなっちゃったし挨拶するよ」

「あー……」


親切で言ってくれてるんだろーけど、お兄さんそれは逆効果って言うか……いやでも、どうすればいいんだろ!?


「えっと、じゃあその、あの、母に会っても、びっくりしないでください」

「???」


なんだか、嫌な予感がする。