…そろそろ行かなければならない。
もう青年と約束をして随分と経った。
私が部屋から出ようとすると、田代さんが声をかけた。
「もう少しだけ、待って。」
そして、徐に何かを取り出した。
よく見ると、それはあの書物だった。
「これ…君は読んでいなかったよね?」
なぜそれ知っているのかと思ったが、私が風呂に入っているときに檜山さんがそう話したらしい。
田代さんは一瞬表情を険しくした後、ゆっくりと口を開く。
「これはね…家族での集団虐殺が書かれていたんだよ。」
「え…?」
「この日記を書いた人は、家族ぐるみでの殺人を記していたみたい。」
ごくりと自分の息を呑む音が聞こえた。
…そうだったのか。
「…化け物になる前の生活が書かれていたんだよ。だけど、到底普通とは思えない。」
そう言って、田代さんは私に視線を合わせる。
「化け物は…元は人間だった。」
聞いて初めて意味が分かった。
脳裏に過ぎるあの時の檜山さんの様子。
人間だったモノであったから、あんな反応をしたのか。
檜山さんの辛そうな寝顔をみる。
…その様子を見ただけで、すごく苦しい。
黙っている私に、田代さんは伺うような視線を向ける。
「…つまり、これが意味するものは分かるよね?」
暗に意味するその事実に、ハッと気づかされる。
…私たちも例外ではない?
「どうしてそうなったのかは分からないけど、僕たちがそうならないとは限らない。
…その要因になりそうだと思うことは出来るだけ避けてね。
何かと聞かれれば答えることはできないけど、注意するに超したことはないから。」
私を心配する田代さんと由実。
その瞳の中で、色々なものが揺らめいている。
「…分かりました。」
決意を固くして、今度こそ部屋を出た。
