それは……








額に入れたような光景。






静かに涙を流す男の人とゆらゆら上がる白い煙り。



制服を着てるからこの学校の生徒に間違いないと思う。
着崩した格好からして…2年生…?3年生…?



絶対に見ちゃいけない場面のはずなのに…。
すぐに此処から動かなくちゃいけないのに…。





あまりにも綺麗に泣く彼の姿に瞳を奪われた。












―ザーッ―






私と彼の間にある桜の木が揺れて強い風が吹き抜けた。

さっきよりも激しく花びらが舞って思わずギュッと目を閉じる。




彼と私の距離。

長さにして約10メートル。








ゆっくり目を開いたその時…彼の黒い瞳が私を見ていた。


乱れた髪の隙間から見えたその人は、何も言わずに私を見つめるだけ。
泣いていたと思った瞳には涙なんてなかった。

あれ…?見間違い…?





「あっ…あの……ごめんなさい!」



すぐに後悔が込み上げてきて全速力で走った。

彼が私を次に見たってわかる訳ない。
だって一瞬だったしこんなに髪もボサボサだし。


うん…、大丈夫。




絶対大丈夫…。