しばらく沈黙が続いていたけど、もう苦しくてもどかしい沈黙ではなかった。

「そろそろ帰るか?」

そっと体を離して、薫は言った。

「うん、帰ろう。」


「香、2人乗り出来るか?」

駐輪場から自転車を出しながら、薫は言った。

「うーん。したことないけど、平気じゃない?」


後ろに座って、そっと薫の腰に腕を回す。

「もっとしっかり掴まれ。」

そう言って、薫はさらに密着するように私の腕を巻きなおした。

「しっかり掴まっとけ。」

抱きついている薫の背中は思っていた以上に大きくて、なんだかドキドキする。

自転車がスッと動き出した時、ギュッと腕に力を込める。

地面から伝わってくる振動と風が心地よくて、薫の背中の温もりを感じながらそっと目を閉じた。