アイツのまっすぐな視線に耐えきれなくなって、結局私はアイツとボウリングをすることになった。

本音を言えば、もっとアイツと一緒にいたかった。

「ねぇ、さっき『香』って呼んだよね?」

自転車を押しているアイツの隣を歩きながら、私は思い切って聞いてみた。

「あぁ。」

「今まで一度も名前読んだことなかったのに、どうして『香』って呼んだの?」

「別に。呼びたかったから。」

ただ前を向いて無表情なアイツの横顔を見ながら、私の頬は思わず緩んでいた。

また『香』って呼んでくれないかな…。

「お前はさ、俺のこと『薫』って呼ばなくなったよな。中学くらいから。」

なんで、そんなこと覚えてるのよ…。

「あれ、なんで?」

急に振り向くから、ビクッとしてしまう。

「それは…」

一向に仲良くなれないのに、私だけ名前を呼んでいることが空しく思えたから。

「何となく…。」

だけど、そんなこと言えない。