安達くんの手に重ねていた手を、急にグイッと引っ張られて私はあやうくバランスを崩しそうになった。

「ちょっと、危ないじゃ…」

抗議のためについアイツの顔を見上げてしまって、今までに見た事がないくらい不機嫌なアイツの顔に思わず息を呑んだ。

「な、なによ。」

「エスコートの練習。」

焦っている私と至って落ち着いているアイツ

そうだった。

コイツにとって私と手を繋ぐことなんて大したことじゃないんだった。

「分かったわよ。付き合えば良いんでしょ。」

失恋したばっかりなのに、どうしてその相手と手を繋いでいるんだろう。

「小山、やるなぁ。」

安達くんが満足げに笑っている。

「ちゃんと森田を大切に扱ってるし、マジで紳士だな!」

安達くんの言うとおりだ。

何故か、手を繋いでいるとすごく大切に扱われているような気持ちになってしまうんだ。

「本番もその調子で頼むぜ!」

そっか、美代ちゃんの手もこうして優しく握ってあげるんだ…。