柔道場に着くと、アイツはすでに着替え終わっていて、安達くんに髪型をセットしてもらっていた。

「お、森田のご登場!」

ごめん。

安達くんの陽気さも今の私にはちょっと鬱陶しいよ…。

「女の子からしてどうかな?毛先遊ばせ過ぎかな?」

いつもきっとセットなんてしてなくてボリュームのないアイツの髪も、安達くんの手によってふんわりしていた。

「イメージ、執事だっけ。」

鏡の中のアイツと目が合わないようにする。

「そうそう、"セクシー執事"。」

「じゃあ、もっと落ち着いた方が良いと思う。執事って品性とか知性が出てた方が良いから、もっと自然で良いと思う。」

なにもしないままで、十分だよ。

無愛想だけど、清潔感あるし、どんな仕草したって様になるんだもん。

「…確かに。森田、小山のことよく分かってるな。」

感心したような安達くんの声を聞いて、保っていたものが決壊しそうになる。

「わ、私ちょっと…」

すでに一筋流れてしまった涙を見られないように、柔道場から出た。