感動のあまりジスがまた抱きつこうとしたが、今度はリラがジスのスネを蹴ったのであえなく失敗に終わった。

「リラ、きみは、また俺たちを助けてくれた。何かお礼はできないだろうか」

「いらないわ」

「だけど俺たちは、きみに感謝を――」

「いいえ。だれも私をありがたく思っていないわ。私の所為で人間たちが死んでいった。だれもが愛する人を失った」

「そうだけど、いつか、きっとわかってくれる。
俺は、知っているから。
きみが、人間を愛してくれていることを」

「だれがそんなこと――」


「愛は届くよ。俺は、そのために働く。きみの意思を届ける。

政府は、犬が働く場所だと思っていた。言われて動くだけの場所。世の流れに戸惑いながら、なのに世論は無視。金を好きに使うところ。
だけど、やはり人間たちの中心なんだ。俺はその中心に立ってる。だから俺は、世界を変えるチャンスを持ってる。中心から末端、ありとあらゆるところへ、きみは敵なのではなく、“仲間”なのだと伝えてみせる」

「ジス......」

「俺はリラに感謝しなきゃな。仕事に、やりがいがありそうだよ」

「私は感謝しないわ。あなたが、世界を変えてくれるまで」

いつもと変わらない、冷たいけれど、優しい彼女だ。

大好きな、俺のリラだ―――

「森で、待っているから」

彼女は、笑って去っていく。

そう、心からの笑顔で 。