「よしよし、いい子ね。もう少しよ。もう少しだからねー」

久々の地元では、牛が、子供を生みつつあった。

元カノのメルンは、お産に立ち合っていた。

「ほら、もうすぐ赤ちゃんに出会えるからね?」

そして、ぬめぬめした透明の液体に包まれた子牛が、ようやく光を浴びた。


「サーン、おめでとう! おめでとう、サーン」

汗と涙で濡れた顔は、きれいだった。

俺は、母親の牛の首を撫でた。

「がんばったな」

こいつは、僕達が初めてお産に立ち合った牛だった。

人が死んでいく中、新たに受けた生を、ちゃんと外に出してあげたんだな。

「がんばって!」

メルンは、子牛が必死に立ち上がるのを見ていた。

がくがくしながら、懸命に母親と並ぼうとしている。

「こいつ、オス? メス?」

尋ねると、

「メスよ。ほら、あなたも応援して」

相変わらず熱いなぁ。

「じゃあ、名前は『アスカ』な」

そう言うと、メルンは驚いたようにこっちを見た。

「ユウキ....」

「立て! 頑張れアスカ!」

「あ、アスカ! ほら、ママのお乳よ」

とにかく、がむしゃらに声をかけた。

こいつは騒音の中でも生きていけるだろう。

そして、ふるふる微かに震えながら、アスカは母親の乳をしゃぶり始めたのだった。

「やった! ユウキ、やったよー!」

なんて、メルンに抱きつかれてしまった僕。

こりゃ、当分興奮したままだな。