教えて!恋愛の女神様

携帯電話を鞄から取り出し、昨日の夜裕矢から届いたメールをチェックした。
(場所はBホテルの二階にある宴会場、カサブランカ。その前で午前八時三十分に待ち合わせましょう……か)
Bホテルは、全国的に名の知れた高級ホテルだ。しかし貧乏学生の身分で入る機会はなく、訪れるのは今回が初めて。考えただけでワクワクした。
(きっと色々ゴージャスなんだろうなぁー。いるだけでお姫様な気分になれるかも!)
思わず目を閉じ妄想の世界に浸った。
 ホテルに入る時はドアマンの男性に『いらっしゃいませ、お嬢様』と言ってもらいながら深々と礼をされ、中に入る。中に入れば、ビシッと髪型や服装が決まったイケメンのホテルマンに『お待ちいたしておりました』と笑顔で迎え入れられ、会場まで案内される。その途中で『今日お召のスーツ、よくお似合いですね』とホメてもらい、最後は『こんな素敵な女性を見るのは初めてです。ぜひ今晩、お食事でもいかかですか?』とデートに誘われる。
 とたん、私の妄想はマックスに達した。
(そんな、ダメ!急にデートとかに誘われても、アルバイトしなきゃならないからできないの。生活がかかっているから働かなきゃならないの!ゴメンなさい!)
私は胸の前で手をギュッと握りしめ、小首をかしげた。自分の中で最大限かわいく。
 すると、右後方から『クスクスクス』と笑い声が聞こえてきた。
「あの人、おかしくない?」
「おかしいと思う。あきらかに周りに友達とかいなさそうなのに、胸の前で手を組んだり首をかしげたりしている」
「ずっとニヤニヤしてるよね」
「あまりにも彼氏ができないから、妄想の中で勝手に好みの男作り上げて会ってんじゃない?」
「ヤバいってソレ!」
さらにクスクスと笑い声が聞こえてきた。
 私はドキッとした。まさにその通りだから。
(やりすぎたかも……)
ゆっくり頭を元に戻し、手をほどき目を開けると、何事もなかったかのように外の景色を見た。すると女の子たちの笑い声も聞こえなくなり、バスのエンジン音だけが大きく聞こえた。